それは若い沙門であった。白い肌。彫りの深い顔貌。女に劣らぬ柔軟な体躯を持つ僧形。名をシッダールタ、後に悟入し仏陀となるその人である。彼の求めるものは唯ひとつ、真理即ち涅槃の境地へ向うことである。とあの月の夜。故郷から離れて遥か。シッダールタ、は、涅槃の果実が実を結ぶという雪冠樹の聳立つナ・オムと呼ばれる魔界へと旅立つ。しかしそこは、この世にあらざる因果の法が織りなす悪夢の結界であった。襲いかかる異形のもの達。寿命を知らぬ百老鬼。若き僧人の悟りへの途は遠く果てなく闇に包まれていたー。人気頂点の著者が独自の宇宙観を史実に照射し、卓越した発想で綴る万華鏡の如きＳＦ冒険譚ここに登場。