怪我をして馬小屋に隠れていた少女は、車を運転していて山道から落ちたのだと言い張った。だが、なぜ自分の名前も家族のことも言おうとしないのか？なぜ警察に電話するのを嫌がらるのか？元保安官のボハノンは、自分の経営する馬牧場にとびこんできた、この傷ついた小鳥のような少女の怯えようが気になった。はたして、少女の足跡を逆にたどっていくと、現場には少女が車から突き落とされ、何者かに追われていた形跡があった。表題作「タンゴを踊る熊」をはじめ、カリフォルニアの豊かな自然を背景に、愛と悲しみに彩られた人間模様とそこに隠された謎を、心に過去の事件の傷を抱く中年の元保安官の目をとおして情感豊かに描く連作中篇集。