東海道は興津の町はずれ、夕陽が海面に長く金紗を投げる砂浜で、二人の若い男女が五分月代の浪人者を先頭にする七、八人の無頼に取り囲まれていた。その争いに割って入ったのは年齢のころ二十と四、五のきりっと整った気品のある顔立ちの、深編笠を持った着流しの若侍であった。茜の空に輪を描く鳥に目を上げて、その名を鶚波太郎と告げた。この謎の若侍に街道で声をかけてきたのは、お屋敷小僧の二ッ名のある盗っ人だった。一方、三河吉田五万石久世家では、国家老が妾腹を擁して家督を横領しようと謀っていた。その危急を江戸表に伝えるべく、次席家老古瀬靫負と盲目の姫君加奈が箱根の峠道へ…。-危うし姫君。加奈姫の運命と謎の浪人鶚波太郎の正体とは…。