本書は、第一次世界大戦前から第二次世界大戦直後までを生きたルート・フォン・クライスト=レッツォウ夫人の伝記である。彼女の生い立ち、青春、結婚生活、そして未亡人になってからの一族の長としての生き方を通して、当時のプロイセンの貴族社会や、戦争へとなだれ込んでいったドイツ国家の状況を、一市民の視点から知ることができる。後半からは、神学者ボンヘッファーが登場し、いよいよこの本の主題とも言える、ヒトラー暗殺のクーデター計画へと、話が進んでいく。ルートはこのクーデター計画と何ら係わりをもっていなかったにもかかわらず、クライスト家の親類一族と、彼女が教会を通じてめぐり逢ったディートリヒ・ボンヘッファー、ハンス・フォン・ドナーニ、リューディガー・シュライヒャー、エーバーハルト・ベートゲらを結びつけ、クーデター計画の中核となるグループを作り上げたという点で、確かに「クーデター計画の女家長」と呼ばれるにふさわしい。