本書の目的は、人間性(人間の本性)の研究である。自分自身のものとなっているさまざまなタイプの経験、すなわち、著者が教師や、臨床経験から学んだことを統合して、人間性に関する意見を表明しようと思ったのである。この方法を採ることによって、限界がないはずのテーマについて、パーソナルな、しかし当然のことながら、きわめて限定された記述が達成できるかもしれない。医者としては、病気について書く方がずっと簡単であり、またずっと普通のことである。しかし、健康とは相対的にみて病気がない状態であるとする医者の仮定では不十分だろう。健康という言葉にはもっと肯定的な固有の意味があるのに対して、病気でないということは健康な生活の出発点にすぎないのである。本書の読者としては、力動的な心理学の文献をある程度読んでおり、仕事においても実生活においても、個人的な経験を積んでいると見なすことができる大学院の学生を想定している。