1771年、裕福なユダヤ人商家に生まれたラーエルは、ドイツ・ロマン主義の華やかなベルリンでサロンを開き、各界のそうそうたる人たちを集めたーフンボルト兄弟、プロイセンのルイ・フェルディナント王子と愛人パウリーネ、フケー、シュレーゲル、シャミッソー、そして伯爵夫人や女優たち。時は、ナポレオン戦争と、それにつづくウィーン会議の後にユダヤ人排斥が再燃する時代。ラーエルは必死に、ドイツ文化に同化し、貴族階級に受け容れられたいと願った。いくつもの恋に破れた後、1814年、ジャーナリスト・外交官のファルンハーゲンと結婚する。しかし、自らのユダヤ性から逃れられはしなかった。著者にとって、ラーエルのユダヤ性は自らの問題であった。本書は、ドイツ=ユダヤ人のアイデンティティを探る最初の著作となり、彼女の個人的な思いが色濃く反映した希有な作品となった。