山岳風景に日本の自然の原点を求め、その自然と一体化しようとする水越武の個性的な写真は今、山岳・自然・写真ファンの間で根強い支持を受けています。水越武は山を、単に形の面白さだけからではなく、動植物、自然現象などの総体として捉えようとします。そうした写真家にとって、“森林限界”は格好の舞台を提供してくれます。森林限界は、高山に這いのぼる樹林帯が厳しい環境にはばまれて、まさに尽きんとする辺りをいいます。ある意味では、山稜と樹林が調和した最も美しい地帯といえます。この地帯を代表する木はダケカンバで、寒冷、強風、雪崩などのために曲がりくねり、地に伏して必死に生きています。自然の猛威に対抗して伸びようとする木々の生命力に、自然のエネルギーや野性の美しさを見、深い共感にかられて撮影されたのが本書です。