神話や昔話の解釈は、フロイトもユングも行なっている。日本にも昔話を研究対象とする柳田や折口らの民俗学があり、精神医学からのそれらへの架橋も試みられてきた。しかし、日本神話と昔話の精神科臨床への導入の試みは、本書が嚆矢ではなかろうか。他の分野における実績でもつとに有名な著者は、「〈この国〉における父と母の位置づけ」（馬場謙一編『青年期の精神療法』１８８２年）で，患者に論及することなしに臨床の場面を再現してみせた。本書初版はその論文を契機に書降され、同じ年に刊行された。増補版では、著者の「乙姫の禁止」のアイデアが臨床の場で検証された治療例と、著者が理論の要約を外国雑誌に発表した論文が補足された。