愚帝は名臣を亡ぼす、愚帝は侫臣を愛す。時は紀元前一世紀。漢の武帝の命で五千の歩兵を率い草原深く進攻した名将李陵を待っていた十万の匈奴の騎馬軍団。激突二十数回。三万の敵を殺し四万の敵を傷つけ、刀折れ矢つきて敵中に斬り込み、人事不省になって虜囚となった李陵軍残兵百余名-。草原に流れる望郷の葦笛-。李陵の武勇をたたえ、師と仰ぐ匈奴の王と王子。食料、武器の後送も怠った武帝は、こともあろうに侫臣の口車に乗せられて李陵の一族を皆殺しに-。勇武をたたえて弁護した司馬遷は地獄に落とされ、屈辱の闇の中で「史記」執筆に命を削る。