本書の主役は信濃国の大名諏訪氏である。永正十三年諏訪頼重は生れ、五歳で諏訪上社大祝に就いたが翌年生母病没に伴い大祝を辞し、のち復任し享禄二年まで勤めあげた。頼満は武田信虎と戦ったり和したりをくりかえした。諏訪氏と武田氏は各々領地を接し、争いは戦国大名の宿命であった。頼重が諏訪氏の家督を嗣いだのは二十四歳のときである。諏訪氏と対抗するものに信濃府中の小笠原氏がいる。そこで諏訪頼重は武田氏との和議の手段として信虎の娘禰々を妻に娶った。禰々は晴信（信玄）の妹にあたる。天文十年五月、頼重は信虎・村上義晴らと信濃小県郡海野棟綱を攻めこの地海野平を掌中に収めた。その翌年、信虎は実子晴信によって追放された。戦国武将父子の習いである。さらに七月、上杉氏は海野平を攻め武田氏・村上氏は退き、頼重は上杉氏と和議を結んだ。ここに武田氏と諏訪氏は不和となった。晴信は秘策を練り諏訪一族高遠頼継・諏訪満清（上社禰宜）らと結び、天文十一年六月、晴信は頼重の本城たる上原城を襲った。頼重は不意の攻撃に慌てて一戦も交えず桑原城に逃れた。頼重は甲府の地に引きたてられ二十日切腹を遂げた。晴信は妹禰々と頼重の嫡子虎王（寅王）を甲府に引きとったものの共に早逝したという。作者は早逝したという虎王を蘇生させ坂巻主殿の手で育てられることからこの「戦国秘巻」を展開させるのである。