オーストラリア内陸部の牧場へ向かって飛ぶセスナ機の操縦席でクリスは隣の席に座っている大柄な乗客を横目で見た。書類に見入っている彼は、かつて会ったことがないほど魅力的な男性だ。でもこの人は、尊大で傲慢で、女性を見下しているいやな男だわ。彼はタウンズビルの飛行場へ迎えに来たクリスに、女性パイロットの操縦する飛行機などには乗れないと言い張り、それ以来ずっと不機嫌なままなのだ。重苦しい空気に、乾燥した大地に目を戻した彼女の胸に不安がよぎった。コースをそれているのでは…。しかし計器はどれにも異状がなく、コンパスは正常コースを飛行中であることを示している。だがその時、エンジンが突然停止し、無線も通じなくなった。操縦桿を握り締め、クリスは叫んだ。「やむをえず、不時着します」。