“愛するマリアへ。寂しい。ぼくたちのあいだには海があり、世界がある。政治がぼくたちを隔てている。だけど、いつも愛している。それを忘れないでくれ”父が亡き母にあてた手紙。それを胸にスザンナは旧東ドイツをあとにした。まだ見ぬ父が住むアメリカには、きっと夢のような生活が待っているはず。シアトルに向かう飛行機で隣り合わせたジェフは、彼女の期待を裏切らなかった。洗いざらしのジーンズにカシミアのセーター。通信社の特派員で気さくに話しかけてくる彼は、スザンナにはまさに自由の国の人の典型に思えた…。空港ターミナルのタクシー乗り場で、ふたりはまた隣り合わせた。ジェフはうろうろしているスザンナをほうっておけなかった。彼につきそわれ、スザンナが父の手紙の住所を訪ねると…。