私の勤める月面基地４の様子がおかしくなり出したのは、１週間前からである。奇妙な病気が流行り始めたのだ。地球から持ち込んだインフルエンザの一種だという説が有力だったが、あっという間に増えた患者たちは厳重に隔離されたまま、快方に向かったという話は全く聞かれない。月の裏側にあるため“ザ・バック”と呼ばれ、もともと不人気なこの基地のムードは一気に悪くなってしまった。おまけに、ふとしたことから私は恐ろしい事実を知った。最初に病気で倒れたのは副所長の一人息子のジェイだったが、彼は本当は病気ではなかったのだ。彼は病気よりもっと恐るべきものに囚われていた。ジェイは宙に浮いていた。もう１週間も、見えない力で宙に固定され、口から白いもやを吐いていたのだ。《悪霊ステーション》の著者が、再度展開する華麗なオカルト・サスペンス。