弥生半ば、まさに価千金の景ではあったが、大川の土手の若草に身を沈めている麻生右近にとっては、花を盛った桜など一列のぼろのようにしかうつらず、きわめて憂鬱であった！みなぎりあふれる若いいのちを燃焼させるものが欲しかった！それに己の運命を賭けてみたかった右近は、兄のすすめる婿入り話を避けて裸一貫、世の荒波に身を投じたのだったが、家出をしたからといって、すぐに右近の空虚感を満たしてくれる世の中ではなかった！志を得ぬままに若草に身をゆだねて野宿を決めこんだ右近に待っていた異変とは…！？事件に遭遇して右近が見た死人の顔は、己に瓜二つの男の顔であった！そして…！？-駿河沼津三万石本多家をめぐる騒動にまき込まれた右近の正体と佳人千鶴の運命は。