「次の停留所では、大混雑だった。すでに満員の車内へ人々は叫びながら殺到した。ピエールは人の波にもまれ、押しやられたのに気づいた。円天井の上には、町の上には、上空には、鈍い爆音。列車は発車した。…車内では恐怖の叫び「独機が来たんだよ!」…彼の手は自分にさわっていた手をつかんでいた。そして眼を上げたときに、それが「彼女」だったのを見た。」第一次世界大戦下のパリ、ドイツ軍の空爆のなか、地下鉄で出会った二人。召集をうけていた良家の息子ピエールと、生活費を稼ぐための絵を画くリュースが、結ばれることは困難であると自覚しながらも想いを募らせる。『ジャン・クリストフ』『魅せられたる魂』を執筆し、ノーベル文学賞を受賞したロマン・ロランによる、平和への願いが込められたうるわしい二ヶ月の恋物語。