レスリーは懐かしい我が家に近づくと不安になってきた。ヒューのもとを去ってから、もう一年以上になる。その間夫は一度も連絡をくれなかった。わたしに関心がないのだ。それでもレスリーには、彼に会わなければならない理由があった。つねに仕事優先の夫に腹をたてて家を飛び出したレスリーは、パリで病気になり、治療費でお金を使い果たしてしまった。共有名義になっている家が、彼女の残された唯一の財産だった。ヒューに未練はないことを証明するためにも、直接会う必要がある。顔を見ても何の感情もわかなければ合格だ。ところがドアが開き、ヒューを目にしたとたん、さまざまな感情がレスリーの心を、そして体を駆け抜けた。わたしが愛した、ただひとりの男性が今、目の前にいる…。レスリーは立ちつくし、彼をただ見つめるばかりだった。